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プロフィール

武者忠彦

@富岩運河環水公園(富山市)

武者 忠彦 | Tadahiko MUSHA

立教大学 コミュニティ福祉学部コミュニティ政策学科 教授
一般社団法人コノマチ 理事
合同会社(LLC)サイドスリー 出資社員

1975年長野県佐久市生まれ。1997年東京大学理学部卒業。メーカー勤務を経て,2006年東京大学総合文化研究科博士課程修了。2006年より信州大学経済学部,2023年より現職。専攻は人文地理学,まちづくり論。

所属学会

日本地理学会,人文地理学会,経済地理学会,日本都市地理学会,都市計画学会

人文地理学という学問領域のなかで,「都市計画(まちづくり)の人文学」をテーマに研究しています。

都市計画やまちづくりを人文学的に研究するとはどういうことか。

従来,これらを研究してきたのは都市工学や建築学といった工学系の分野ですが,近代都市計画の批判とともに,工学的に正しいとされる機能やデザイン,事業や組織を「入力」すれば,快適で賑わいのある都市が「出力」されるという法則が,必ずしも成り立たないことが明らかになってきました。現代のまちづくりでは,よい計画がよい都市を生むという工学的な思考だけでは不十分で,計画をめぐる人間の行為が影響し合ってよい都市が生まれる因果連関のストーリーを記述する社会科学的な思考が必要になってきています。たとえば都市の緑化を考える場合,緑地をどれくらいの比率でつくれば都市は快適になるといった一般法則だけでなく,ある社会や経済の条件の下で緑地を誰がどのように利用し,そこにどんな関係が生まれるのかを説明するストーリーが重要となります。

別の言い方をすれば,利便性や効率性を追求した「都市化」の時代には,近代化という都市像が共有され,それに向けた合理的な戦略にもとづいて都市というシステムを制御するという考え方が優勢でした。一方,これからの地域性や持続可能性が重視される「都市らしさ」の時代には,前提とされる都市像などなく,ローカルな状況に合わせた個々の戦術的な実践が連鎖して,事後的に都市のらしさが共有されるという考え方が主流になります。

このような潮流の変化を,私は「工学的アーバニズム」から「人文学的アーバニズム」への転換と表現していますが,都市計画やまちづくりのメカニズムについて,地域の文脈と豊かな人間像を前提とした具体的なストーリーで論理的に説明しようとする人文学的視点は,工学的アーバニズム全盛時代のまちづくりを反省的に分析し,人文学的アーバニズム時代のまちづくりを本質的に理解する手がかりになると考えています。

[テーマ1] リノベーションによる都市の再生

近年,中心市街地における遊休不動産のリノベーションが自律的に展開し,明示的な計画がないまま都市再生が進む現象がいくつかの地方都市で展開しています。このような空間的秩序がなぜ生じたのか,創造的人材の流入や地域的文脈の継承といったストーリーから説明する研究を進めています。(早稲田大学教育学部箸本健二教授らとの共同研究)

[テーマ2] 世帯のライフコースと地方都市の空間的再編成

現代の地方都市を見ると,中心市街地では商店街の空洞化,郊外では農地の放棄や宅地化,山間部では山林の荒廃などが進行しています。これらを単なる土地利用の転換や低未利用化ではなく,世帯の生計戦略における家業・家産の継承の問題と捉え直すことで,今後の地方都市における空間再編のメカニズムが明らかになると考えています。(大分大学経済学部大呂興平教授との共同研究)

[テーマ3] 空間コードの理論と応用

人文学的アーバニズムの時代のまちづくりでは,ストーリーが動き出す起点として,都市らしさを読み解く行為が重要になります。この「らしさ」について,表層的なテーマやデザインではなく,それらを生み出す元となった人間や環境の関係性に「らしさ」が内在するという視点に立ち,その関係性を可視化する「空間コード」の研究を進めています。(愛知県立大学外国語学部竹中克行教授らとの共同研究)